アイドルの労働環境を変えるため
バイトアイドル育成、20歳で起業

2019.11.15. UP
山本 陸公
【1998年・千葉県出身】
Writer Profile
川代 紗生

Written by

Kawashiro Saki

Photographer Profile
大坂 千晶

Photograph by

Osaka Chiaki

固定概念を疑い、レッテルを覆す

まさか、独立して最初の仕事でクライアントと喧嘩するとは、夢にも思わなかった。発端はWebメディア【わたくしごと=私らしい仕事】の高田編集長から仕事の依頼を受けた事だった。



「アルバイト・アイドルをプロデュースするため、20歳で起業した青年がいる。山本陸公(やまもと・りく)って言うんだけど。大学には行かず、社会人ばかりのビジネススクールに一人飛び込んでくるような子だ。面白い人物なのだが、年が離れているからか、俺では理解できないところがある。だから川代さん、代わりに彼について記事を書いてくれないか?」

依頼があったのは、ライターとして独立した事をFacebookで告知した直後だった。27歳での新しい出発。一発目の仕事。純粋な嬉しさと、失敗出来ないという怖さと、高田さんの力になりたいという想いもあった。陸公さんについて語る彼は、常に熱が篭っていたからだ。余程面白い子なんだろうと思った。

でも、その21歳の青年に強い興味を抱いている一方で、同時に恐怖も感じているのだと42歳の高田さんは言った。

「恐怖......ですか?」
「いつか、俺たちオッサンの
 存在自体を脅かしてくるんじゃないか?
 って、胸騒ぎがするんだよ」

怖い。でも、知りたい。
相反する感情が高田さんの中にあるのは事実のようだった。だからこそ、この複雑な感情の正体を私に解明して欲しいのだ、と。

とはいえ、私とて現代の若者についてそこまで理解している訳ではない。加えて、物事を斜に構えて見てしまう良くない癖もある。見ず知らずの陸公さんの魅力を書き切れる保証はない。引き受けるべきだろうか、と暫く考えた。

「失敗したらどうしよう」という恐怖と、「陸公さんの魅力を解明したい」という好奇心を天秤に掛けて、私は結局、後者を取った。



陸公さんは、High Booking Entertainment社の代表取締役である。2019年1月に設立したこの会社は、アイドルをアルバイトとして雇用する少し変わった芸能事務所だ。アルバイト契約に拘るのには意図があった。

「地下アイドルの自殺事件が報道されて
 ブラックな労働環境を知って。
 僕が好きなアイドルを取り巻く世界の
 課題と言うか、闇を多く感じました」

陸公さんが感じた闇とは、例えば労働時間と給与だった。一般業種は、時間当たり幾らという最低時給が法律で定められている。だが、アイドル等の芸能事業は、その適用から除外されるのだ。雇用される労働者扱いでなく、個人事業主の業務委託関係に近いケースが多い。結果、アイドルの卵達がイベントやライブをしても、集客できず利益が出なければ、報酬が貰えない事もある。

「既存の常識で言えば、
 厳しさを乗り越えてこそ売れる、
 という論理が当たり前ですよね。
 でも僕は、納得出来なかったんです」

従来の働き方しか選択肢が無いのなら、労働環境に苦しむ地下アイドルや、夢半ばで挑戦を辞める志望者が後を絶たないのではないか。だったら、自分が新たな形に挑戦する価値があるのかも知れない。そんな想いで【アルバイトアイドル】という雇用を開始した。



「『常識』とか『成功する法則』とかに
 乗っかるのって、嫌なんですよね。
 自分の直感を優先する方が、
 成功への近道になると思ってる。
 これは、自信を持って言える」

まるで、大人への挑戦状を叩きつけるようだ。どうしてそこまで言い切れるんだろう、とふと思う。私なら、そんな風に断言は出来ない。21歳なんて、周りの目を一番気にする年齢じゃないのか。



一見すると「生意気だ」と言われそうな陸公さんだが、彼の元には、デビューを目指す10代〜20代の少女や、年上のプロフェッショナルたちが集う。ボイストレーナー、ダンス講師、作曲家、動画編集者など。例えば、元「アイドリング!!!」リーダーの遠藤舞氏がボイストレーニングを担当し、TV番組の振付け実績を持つホリヒロキ氏がダンス講師。シンガーソングライターko-ji氏もアシストしている。様々なプロが、陸公さんの描く【アルバイトアイドル】のデビュー実現に向けて、神経を注いでいる。



正直なところ、最初に陸公さんの話を聞いた時には、どこが彼の魅力なのか私も理解し切れずにいた。ライターとして書かなければならないのに、困った。何故、彼の周りには人が集まるのだろう。どうせ、若者の軽いノリなんじゃないの?

おそらく、そう無意識に抱いていた私の先入観が伝わってしまったのだろう。本記事の初稿を提出した時、高田編集長とぶつかった。



「全然『わたくしごと』メディアが
 求めてる記事じゃない。
 違うんだよ!こういう事を伝えるために
 陸公くんに取材依頼したわけじゃないし
 川代さんに記事作成を依頼したんじゃない」

しまった、と思った。恐れていた事が起きた。薄っぺらい上澄みだけ掬って、何とか綺麗にまとめ上げようとしているだけで、本質は何も掴めていなかったのだ。心のどこかで薄々勘付いていたことを指摘されたような気がした。

しかし、どうしたら良いのだ。そもそも【わたくしごと=私らしい仕事】というメディア自体が発展途上で、高田さんの中でも方向性が定まっていないと言うではないか。本来、ライターとはメディア側の指示を指示通りに熟すのが仕事である。文章制作する上でのルールはある程度決まっているのが普通なのだ。テンプレートに従って丁寧に書いていくのが良いライターなのだと思っていた。

なのに、テンプレートは無いけれども、その先を超えた面白さを追求したい、と高田さんは言う。あまりの無茶振りに私も思わず言い返し、独立後の初仕事でクライアントと喧嘩をするという最悪の結果を生んでしまった。夜も眠れず【わたくしごと】の過去掲載記事と睨めっこし、陸公さんについての取材書き起こし原稿を繰り返し読み続けた。



すると、一つ気が付いた。陸公さんが頻繁に口にする言葉があった。

「既存の常識って、言い換えると
 テンプレート化・レッテル貼りって感じ。
  『これが普通だから』っていう思考停止を
 社会や大人から押しつけられても、
 僕たち若者は幸せになれないでしょう?」

「テンプレート化」「レッテル貼り」「固定概念」「先入観」「偏見」。陸公さんは、そういった言葉を良く使う。世の中の若者に対する固定概念を覆したい。だからこそ、起業することに決めたのだと言う。

そこでハッとした。まさに、私がやろうとしていた事こそ、陸公さんの言う「テンプレート化」だったのではないか?

「新しい事に挑戦する若い起業家」というテンプレートに当てはめて、陸公さん自身を見ようとはしていなかったのでは? そして私自身も「失敗したくない」という意識が強いあまりに、自分を「良いライター」というテンプレートに当てはめて仕事をしようとしていたのではないだろうか......。

結局私は、それまで制作していた全ての原稿を削除した。



さて、【わたくしごと=私らしい仕事】メディアを読み続けてきた読者の皆様は、あまりに今までと異なる書き方なので、驚かれているかも知れない。

これは、私がこれまでのテンプレートを覆したいと、高田編集長に提案した結果だ。

陸公さんの魅力を十分に伝えるためには、私自身が自己開示することこそが最善策だと考えた。陸公さんのストーリーと出会ったことで、彼の魅力を言葉で伝えるという行為を通して、私は変わったからだ。

今から、【アルバイトアイドル】育成事業に挑戦し始めた山本陸公さんの【わたくしごと=私らしい仕事】創出STORYを、皆様にお伝えする。

けれども読む前に、これだけは私からのお願いである。陸公さんに出会った当初の私と同じように、「あー、若い子が頑張ってるのね」といった先入観を持って読むのはやめてほしい。「頑張ってる若者」という型に当てはめないでほしい。山本陸公さんは山本陸公さんなのである。

このお願いは、陸公さんの為であり、高田編集長の為であり、私の為であり、そして、あなた自身の為である。彼のSTORYに触れることが、あるいは多くの人を「テンプレート」や「レッテル」から解放する一助になるのではないかと私は思っている。

山本 陸公  Yamamoto Riku
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