不器用な個性に勇気を与える

会話下手な美容師

2020.04.11 UP
吉澤 智洋
【1989年・東京都出身】
Writer Profile
松下 涼

Written by

Matsushita Ryo

Photographer Profile
吉澤 智洋

Photograph by

Yoshizawa Tomohiro

引きこもれないから、美容室へ

吉澤さんは、5人家族の姉と弟に挟まれた長男。内気な性格で、家族以外の人と話すと緊張した。流暢に話せないから、うなずいたり指さしたり。いつも黙って、身振り手振りで表現する子だった。

 小学校に入ったら、同級生から
「言語障害」って言われてしまい

 ショックでした。。。

以来、ずっとイジメに遭った。中学校では、イジメが悪化。毎日の下校時には、皆のカバンを何個も首に吊り下げられた。少しでも反抗すれば、殴る蹴るの暴力がエスカレートした。だから、黙って耐えるしかない。そんな思春期だった。

理不尽で、不公平だなって
ずっと、そう感じてました。



中学3年生の時。母親が買った自分の私服がダサくて「これ、変だよね」母に言ったら『あんたが、オカシイんや!』と否定された。家にも居場所が見つけられない気持ちだった。

自分を認めてくれない社会に
復讐心を抱きましたね(笑)

どうすれば、自分は受け入れられるのだろう?
吉澤さんは中学当時、自分の髪型が嫌いだった。
服と同じく親が選んだ床屋では、いつも似合わないスポーツ刈りにされていた。

美容院に行ってみたいと思った。
もしかしたら変われるかもって。

電話で上手く話す自信がなく
予約もせずに、行きました(笑)



家から歩いて10分ほど。ガラス張りの店内は、真っ白にキラキラ光って見えた。怖くて帰りたい気持ちになったが、何とか自らを奮い立たせてドアを押した。声をかけてきたのは、見た目30代のパーマがかった茶髪の男性美容師。吉澤さんは過度の緊張で、いつも以上に声が出なかった。

「前髪は、目にかからない位かな?」
「襟足は、これ位の長さで大丈夫?」

美容師さんはさり気なく、吉澤さんの相槌だけで希望の髪型を聞き取ってくれた。余計な会話を圧しつけてくることも無く。そのことに少し安心した吉澤さんはカットの間、ついウトウト睡魔に落ちた。



トントンと肩を叩かれた。いつの間に熟睡していた目を見開くと、鏡に映っていたのは今までと全く違う自分だった。

「カッコイイですね!」

鏡越しに満面の笑みを浮かべながら、美容師さんが言ってくれた。その瞬間、吉澤さんは心の奥底から嬉しさが込み上げてきた。ひょっとしたら俺って、イケてるかも?!ほころぶ顔を懸命に抑えながら、店を出る時「ありがとうございました!」声を普通に出せている自分に気づいた。

それでも翌朝、登校するのは怖かった。変わった髪型をイジられて、またいじめられるかも。恐る恐る教室に入ると、すぐに同級生が寄ってきた。

「その髪型、イケてるじゃん!」

吉澤さんは黙ったまま。でも内心、嬉しくて笑顔を隠し切れなかった。復讐心から起こしたはずの行動が、人にホメられた。その時、初めて感謝と自信の気持ちが自らに湧いてくることを実感できた。

吉澤 智洋  Yoshizawa Tomohiro
掲載者への応援メッセージ・感想など