不器用な個性に勇気を与える

会話下手な美容師

2020.04.11 UP
吉澤 智洋
【1989年・東京都出身】
Writer Profile
松下 涼

Written by

Matsushita Ryo

Photographer Profile
吉澤 智洋

Photograph by

Yoshizawa Tomohiro

会話下手な美容師だからこそ

「スタイリスト」になると、アシスタント時代とは仕事に対する考え方が変わってきた。例えば、給与も歩合給が追加される。お客様からの指名数や売上などにより、毎月の給与額も変動した。

他のスタイリストと違う、自分の個性は何なのか?お客様にもお店にも貢献できる、自分らしいサービスとは? 吉澤さんは新たな挑戦を模索し始めた。



まず始めたのが「訪問美容」だ。例えば、要介護の高齢者は、美容院まで独りで外出するのは難しい。だからご自宅まで美容師が訪問し、ヘアカットしてあげられたら喜ばれるはず。そう考えて社長に提案すると、新規事業として採用してもらえた。

さらなる試みを企画するため、起業家が集まるビジネススクールに通い始めた。その卒業生の1人が開催した、元引きこもりの人達が集まるイベントが気になって参加してみた。

「美容院なんて華やかなところ
  私には、縁が無いんですよ。。。」

1人の出席者の言葉が、吉澤さんの胸に響いた。
自信の無い姿が過去の自分と重なって、他人事とは思えなかった。この人たちは、僕が変えられる。なぜか、そう確信した。



そして、考えたのが『BLP=ビューティフル・ライフ・プロジェクト』という活動だ。引きこもりや精神疾患など、髪を切りに行くのも億劫になっている人たちの役に立ちたい。そんな想いから、ヘアカット・メイク・ファッションコーディネートなどのプロフェッショナルたちが連携し、参加者の外見をカッコよく可愛く変えてしまうイベントだ。

初開催から、もうすぐ2年。
今まで13回、開催してきました。

ある男性は、腰まで伸ばした長髪を
1年以上も、切ってなかったり・・・

参加者の皆さんは、おおむね最初は話しかけても、硬い表情のまま目線も合わない。声も聴き取れない。そんな方々にお会いする度、吉澤さんは過去の自分を想い出す。そしてコミュニケーションを押し付けず、ただ自然体で接していく。

「BLP」は、私にとって
  原点を思い出させてくれる、
  大切な場なんです。



受け入れられる居場所が持てず苦しむ人達に、一歩踏み出すきっかけを創りたい。10年以上、自分と向き合い磨き続けた技術を通じて。来て下さった人達の外見を変え、もともと持っている魅力を引き出したい。

そんな原点を持つ吉澤さんは、試行錯誤を重ねても会話上手にはなれなかった。だからこそ、自分の技術と心を込めてヘアカットに集中する。そしてカットを終えた後、一言だけ言葉を添える。

カッコいいですね!
可愛いですね!って(笑)

お世辞でもリップサービスでもなく。本音で思った事しか、言葉にできない自分だからこそ。その一言が添えられるか? いまだに毎回、吉澤さんは緊張する。



私は吉澤さんに出会った時、最初に言われた一言を思い出していた。あのキザな台詞は、不器用で会話下手な美容師ならではの表現だったのかと。コミュニケーションに苦しんだ分、ヘアカットという技術を磨き、口数は少ないが純度の高い言葉を発する人になったのだ。

読者の皆様の中には、髪を切ってもらう間の会話に気を遣い、美容院に苦手意識を持っている人も多いだろう。そんな方は、美容師なのに会話下手な吉澤さんを指名してみてはいかがだろう?きっと、ただ黙々と理想の髪型を探求する職人との時間が、心地良く感じられるに違いない。

そして、何かを境に外出するのが苦しくなっている方が読んでくれたら。【BLP=ビューティフル・ライフ・プロジェクト】にぜひ参加してみては?会話下手な美容師は、あなたを通じて原点を想い出し、同志とすら感じるはず。だから変化しようなんて力まずに、伸び放題の髪のままで遊びに行ってみてください (^O^)/

吉澤 智洋  Yoshizawa Tomohiro
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